不思議な空間認知
「不思議の国のアリス症候群」の原因について続けていきます。一説では変視症の一種とも考えられています。変視症とは、黄斑部網膜に浮腫、癒着、牽引での変形が生じて自覚される症状です。屈折異常による乱視は像がぼやけますが、ゆがんで見えることはありません。
頻度が高い疾患として、加齢性黄斑変性、黄斑部網膜上膜、黄斑部の剥離、黄斑円孔、中心性漿液性網脈絡膜症などが挙げられます。ただ、「不思議の国のアリス症候群」の原因はこれ一説というわけではなく、てんかん、片頭痛、離人症、脳腫瘍や薬物から症状が出現する場合もあるとされています。そうなると神経内科、脳神経外科、精神科への受診が必要だと京都大学大学院の新宮教授も話されています。
精神面からの考察では、現実離れした空間を想像する思考力が影響していると考えられています。新宮教授によれば、「論理」と「空間認知」という2つの能力のつながりが通常の状態ではなくなっている状態だと考えられるそうです。
普段、私たちが空間を三次元として正常認知できるのは、小さい頃から「明日・昨日」、「大きい・小さい」、「表・裏」など、言葉を使って比較について確認しながら空間を捉えてきた経験があるからです。論理を実際の空間に当てはめる訓練ということです。
しかし、人間の論理的思考力には現実離れした空間も想像できます。表と裏がない「メビウスの帯」のイメージなどがそうです。著者のルイス・キャロルは数学者だったことで、空間独特の変容体験が、巧みに童話の中で描き出されたのかもしれません。